布団から飛び起きて、あいつの名前を呼ぼうとした。
呼べなかった。
……あいつって誰だ?
喉に引っかかった名前がそれ以上出てこない。
息が苦しい。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
肺腑に溜まった空気を絞り出す。
息が苦しい。
それ以上に胸が苦しい。
何よりも大切だったはずの誰かを失くしてしまった。
喪失感が現実の痛みとなって身を嵌んだ。
「い、痛いよ、お兄ちゃん」
俺は、目の前の少女の身体を力いっぱい抱きしめていた。
「あ、ご、ごめ、はづ、ねちゃ、」
上ずった声に自分自身でびっくりする。
俺、泣いていたのか?
「勝手にごめんね、お兄ちゃん、なんだかとても辛そうだったから」
初音ちゃんが心配そうに俺の顔を見上げている。
畳の香る柏木家の客間。
障子が薄く開いて、透明な朝の光が差し込んでいる。
雀の鳴く声が聞こえた。
そうだ、ここは隆山にある柏木の本家。
俺の名は柏木耕一。
事故で死んだ親父の四十九日を兼ねて、俺はこの地へ遊びに来ていた。
この屋敷には、俺の従姉妹、麗しの四姉妹が住んでいる。親父から離れてすでに何年も経つ俺よりも、つい昨日まで親父と一緒にこの家で暮らしていた彼女達の方が辛いはずだろうに、従姉妹達は俺に気をつかってとてもよくしてくれている。
その心遣いがとても、嬉しい。
ようやく暑気は薄れ、季節は秋を迎えようとしている。日々は穏やかに、優しく過ぎていく。
何でもない事こそが幸せなのだと気付かせてくれる平穏な日々。
なのに俺は何をこんなに悲しんでいるんだろう。
何を失なったかもわからない、その事実が余計に苦しい。
「ごめん、もう、ちょっと、このまま…」
「うん…」
初音ちゃんは何も聞かずに俺の肩を抱いてくれた。
俺は声を殺して泣いた。