お兄ちゃんは横になって、寝息を立てていた。
今から自分のしようとしている事を思い浮かべて、すごく恥ずかしくなった。でも止めるわけにはいかない。
気を取り直して、お兄ちゃんのズボンに手をかけた。ベルトを緩め、チャックを下ろす。起こしてしまわないように、そうっと。
お兄ちゃんはチェックのトランクスを穿いていた。まさぐると、前の方がボタンで止まっていて、左右に分かれるようになっている。
――男の人のパンツって、こんな風になってるんだ。
ちょっと、どきどきする。
ボタンを外して、お兄ちゃんのおちんちんを露出させる。ほろり、とこぼれたそれは大きい芋虫みたいで、前に見た時とはぜんぜん様子が違っていた。
……これがあんなに大きくなるんだ。
なんだかすごい。とてもすごい。
前も可愛いと思ったけど、ちっちゃいのもまた違った趣きがあった。ふにゃふにゃしていて柔らかい。カイコの幼虫みたいな感触だった。
両手で大切に支えて、ちろり、と舌を這わせる。
「う……」
お兄ちゃんが呻き声をあげた。
びっくりしてその場で硬直する。
一秒…二秒…三秒。
お兄ちゃんが起きる気配は無かった。
ちろ、ちろ、ちろり。ぬるん。舌を這わせると、お兄ちゃんの身体が微妙に反応する。特に、裏の筋になっているところの先っちょが、反応が強いみたいだった。
「ふ、ふん、ん…」
お兄ちゃんが可愛い喘ぎ声を上げる。気持ちいいんだろうか。嬉しくて胸がきゅんとする。
丁寧に、丹念に嘗め上げていると、お兄ちゃんのおちんちんは大きくなり始めた。サイズが大きく、熱くなってくる。怒張したおちんちんは、やがて完全に屹立した。血管が浮き出て、びくんびくんと痙攣している。先っちょには透明な汁が漏れ出していた。
――やっぱり、ちゃんと勃つんじゃない。
なんだかちょっと悔しい。
「う、うわわわわあああっ!? ははは、初音ちゃん何してるのおおおっ!??」
お兄ちゃんが心底驚いた叫び声を上げた。
それはそうだろう。目を醒ましたら自分のおちんちんを女の子が弄んでました、なんて普通は驚く。驚かないほうがおかしい。
………わたし、なんてはしたない事してるんだろう。
我に返って、赤面する。言い訳をするように、
「お兄ちゃん、さっきはなんで、だめだったの?」
「…………」
あの、正体のわからない重苦しい感情が、一瞬にしてよみがえる。
「言わなきゃわかんないよ!」
「初音ちゃん!?」
わたしの様子に、お兄ちゃんは意表をつかれたようだった。
「いくら心が通じてるからって、言葉にしなきゃわからない事もあるんだよ。お兄ちゃん、わたしにわがままでもいいって言ったね。でも、それってずるい。お兄ちゃんもわたしにわがまま言ってくれるんじゃないと、釣り合いがとれてなくてずるいよ」
「…………」
「わたし達、結婚したけど、それってずっと一緒にいようって約束しただけだもん。夫婦になったって事じゃないんだもん。たぶんね、わたし達はこれから一生かけて夫婦になっていくの。少しずつお互いの事わかって言って、喧嘩もするかも知れない、一緒にいるのが嫌になるかも知れない、でもそうやって色んな事を積み重ねて、夫婦になっていくんだよ。
なのにそうやって何も言ってくれなくちゃ、お兄ちゃんが何を苦しんでるのかわからないじゃない。そんなのずるい。ずるいんだからぁっ」
こらえ切れずにわっと泣き出してしまった。
やっぱりわたしは泣き虫だ。おちゃらけて、冗談みたいに済ませようと思っていたのに、言葉にしたら気持ちが昂ぶって耐えられなくなってしまった。
「…ごめん」
わたしはお兄ちゃんの胸元に抱きついて子供のように泣きじゃくる。
「ばかばかばか、お兄ちゃんのばかぁ!」
「気を遣わせまいとして逆に心配かけちゃしょうがないよな、ほんとごめん」
お兄ちゃんの大きな手が優しくわたしの頭を撫でた。
わたしの嗚咽が収まってくると、お兄ちゃんはぽつり、ぽつりと語り始めた。
「俺ね、柏木の血筋が恐いんだよ」
「エルクゥの血…?」
「そう。初音ちゃんと結婚するって事は、柏木の鬼の血を引く子供を作るってことだろ。女の子だったらいい。でも、もしも男の子が生まれたら、どうする?
俺の親父も、伯父さんも、柏木の血に負けて死んだ。俺達の子供がそうならない保障なんてどこにも無い。むしろ分の悪い賭けだ。そうなった時に自分の子供が苦しむ姿を見なけりゃいけないのか? 下手をしたら自分の子供をこの手にかけなきゃいけないかも知れないんだ」
「………」
「俺は…そんな無責任な事は出来ない。そんな重過ぎる責任は背負い込めない…」
お兄ちゃんは震える声で、長い長いため息を吐いた。
ひとりで。ひとりでお兄ちゃんはそんな重圧と戦っていたんだ。
ほら。
ちゃんと言葉にしてくれれば、こうやって分かちあえる。
「ねえ、耕一お兄ちゃん? もともと親なんて子供の一生にそこまでの責任は持てないよ。普通に生きててもいつ死ぬかなんてわかんない。人間は、死ぬまでにどう生きたかが大事なんじゃないの?」
「そんなのは詭弁だ!」
「お兄ちゃん、自分が生まれて来なかった方がよかったと思う?」
「それは…」
「思う?」
「…思わない。でも、それは俺が鬼を制御する事ができたから…」
「じゃあ、叔父ちゃんは?」
お兄ちゃんはぐっと言葉に詰まる。
「わたしのお父さんは? お爺ちゃんは? 柏木の血を継いで来た人はみんな、そんな無責任な人達だったの?」
「……」
お兄ちゃんは目を逸らそうとする。
「ちゃんとわたしの目を見て」
「…違う…親父は…無責任なんかじゃ無かった。ずっとずっと俺の事を心配してくれていた。親父に見捨てられたと思って俺がすねてる間も、ずっと…」
お兄ちゃんは膝を抱えて、目元に涙を浮かべた。
「ここは、いいところだよね、お兄ちゃん」
「…ここ?」
「そう、ここ。この世界」
そう言ってわたしは、両手をめいいっぱい広げて見せた。
「…ああ、そうだね。とても、とても、いいところだ」
「色んな人がいて、いい人もいれば、いやな人もいる。楽しい事もあれば、辛い事もある。生きていくのって嬉しいばかりじゃない。むしろ悲しい方が多いくらい。それでもわたし、生まれて来れてよかったと思ってる。お兄ちゃんと会えて、よかったと思ってるよ」
「うん…俺も、初音ちゃんと会えてよかった」
ふたりで顔を見合わせて笑い合う。
「わたしね、わたしとお兄ちゃんの子供達に、この世界を見せてあげたい。こんなにも世界は素敵だよって教えてあげたい」
「うん」
「わたしが好きになったこの世界に、連れてきてあげたいの」
「…初音ちゃんは大人だなぁ」
お兄ちゃんはぼりぼりと頭を掻く。
「そっ、そんな事ないよ」
「そうかなぁ。俺なんかより全然しっかりしてるじゃない」
「それは…お兄ちゃんが一緒にいてくれるから…だよ」
「…そっか」
「…そうだよ」
わたしはお兄ちゃんの胸に体重を預けた。
規則正しく刻まれる心臓の音が、心地よい。
この人だ。わたしが選んだのはこの人だ。一人ではなく二人で。共に歩いて行こうと決めた人だった。
このまま時が止まってしまってもいい。そう思うくらい心地よい時間だった。
不意に、お兄ちゃんの鼓動が早くなった。
不思議に思って目を開けると、力強くいきり立ったお兄ちゃんのおちんちんが目に入った。私は顔を赤くしてうつむく。
「ごごごごめんっ。不詳の息子が申し訳ないっ。今すぐしまう、しまいますからっ」
あわててチャックを上げようとするお兄ちゃんの手を、わたしはひしと掴んだ。
「あの、えっとね」
「…な、なに?」
「さっきの続き、したい…」
「…なんか、今日の初音ちゃんは、大胆だなぁ」
わたしは、恥ずかしくて目をそらす。
「今夜は寝かせてあげませんよ、俺の可愛いお嫁さん」
お兄ちゃんは両腕でわたしをしっかりと抱きしめて、耳もとでささやいた。