「さっきから、嬢ちゃん、妙に嬉しそうやじ?」
「えへへ、ちょっと」
「なんなんや、気になるがいや」
「ああ、俺達、結婚する事にしたんです。そういう事でよろしく」
「こ、耕一お兄ちゃんっ!」
遅い夕食を取っていると、いきなりお兄ちゃんがぶち上げてくれた。
「ワオ、オメデタイ。スバラシイコトデス」
「はっはー、それはそれは。式はいつやるんが?」
「やあ、特に考えてないですよ。こんな生活ですからね」
「ほんなんだちかんて、一生に一度の事なんやじ。タケ、ヒデ、ヤスさん捜してこい、そいから、知ってる奴らにも声かけてきまっし」
結局、大騒ぎになってしまった。
元牧師さんのヤスさんを引っぱり出して、知り合い二十人程が集まって、一斗缶にマキをくべた焚火のまわりで、奇妙な結婚式が始まった。
ヤスさんはすり切れた聖書を片手に、聖歌を歌い上げる。
聞こえるのは、パチリ、パチリとマキが爆ぜる音と、ヤスさんの朗々たる歌声だけ。質素で、派手なところのまるで無い式だけど、不思議と荘厳な感じがした。
ヤスさんがわたしの手を取り、お兄ちゃんの手に握らせる。
「汝、柏木耕一は、この女を妻とし、病める時も、健やかなる時も、これを愛し、これを慰め、死が二人を分かつまで、他の者に依らず、この女のみに添う事を誓いますか」
「誓います」
「汝、柏木初音は、この男を夫とし、病める時も、健やかなる時も、これを愛し、これを慰め、死が二人を分かつまで、他の者に依らず、この男のみに添う事を誓いますか」
「…誓います」
結婚指輪なんて無かったから、プルリングで代用した。
お互いの左手の薬指に、リングを通す。
お兄ちゃんがわたしの手に、そっと誓いの口づけをすると、拍手と、口笛と、祝福の声が巻き起こった。
それから後は、なし崩しに宴会に突入してしまった。
とっておきのお酒と缶詰を持ち寄っただけのささやかな披露宴。そこら中で笑い声がして、真っ赤な焚火が熱いくらいで、ここだけ時間が止まったみたいだった。みんなが次々にお祝いの言葉をくれる。わたしはその間中、ずっと泣きっぱなしだった。
この素晴らしい夜の事は一生忘れない。