その夜、詩亞は一睡も出来なかった。
館の中で、メイドに手を出す事は最大のタブーだ。館の主人である幹久が率先して禁を破ったと言うのだろうか。
思考はまとまらない。ただ、裏切られた、と感じた。あの日ハーレムの廃ビルで感じた苦い思いがよみがえる。
カーテンの隙間からうっすらと射した朝日が隣のベッドで健やかな寝息を立てている七海の顔を照らす。
「七海ちゃん、起きて」
寝惚けた声で七海がむにゃむにゃと答える。
「お休みをもらったんだ。今日は街へ遊びに行こう」
自分はすでに汚れた身だ。だけど、せめてこの子だけでも。
混乱した頭でそれだけを考えていた。