瞬く間に一週間が過ぎた。
七海の一日は、朝の六時に始まる。食事や掃除といった館の整備は、館に数人いる『男衆』の仕事だ。ここはメイドが働く場所では無く、メイドを作る場所だから、一日の時間の大半は様々な技能の修得に費やされる。
何を学ぶべきかはメイド自身の自主性に任されている。学びたい事があれば、幹久がどこからか『教師』を連れて来る。『教師』の身元が明かされる事は無く、『教師』にメイドの身元が明かされる事も無い。
「はあぁ」
七海は派手な溜め息をついてベッドに倒れ込む。
この一週間、学習の『クラス』を覗いて回ったが、その内容は実に多岐に渡っていた。
「疲れた? 七海ちゃん」
詩亞が横に腰かける。
「なんだか、思っていたのと全然違います」
「どんなだと思ってた?」
「え、その…え、えっちな事とかされるのかな、って思ってました」
詩亞は声をあげて笑った。
「あるよ、そういう『クラス』も」
「ほ、本当ですか?」
「そう。希望すればセックスの技術を教えてもらう事も出来る。でもそうで無ければ、手を出される事は無い。男衆の一番のタブーは館のメイドに手を出す事だから」
『セックス』を殊更に強調する。七海は真っ赤になって顔をうつむかせる。詩亞はそれを見て意地悪く笑う。
「主人がウブなメイドを望む場合もある。メイドと主人は常に唯一無二の関係だから無理に鋳型に嵌めちゃダメ。それがミッキーの教育方針なんだね」
誰かに仕える、という事が七海にはまだよくわからない。それは、想像もつかない遠い未来の出来事に思われる。
だが、この館での生活は楽しい。今まで通りに勉強が出来る。年齢の近い少女達がいる。中でも、詩亞は特別に優しくしてくれる。
七海は詩亞をとても好きになった。
「そう言えば、詩亞姉さまは何をなさっているんですか?」
この一週間、回ったクラスで詩亞の姿を見かける事は無かった。詩亞はにやりと笑って、右の拳を握って見せる。
「これ」
「?」
「太極拳」
「あの、お爺さん達が公園でやってる…?」
「ちがう、それは健康体操。本当の太極拳は立派な武術なの」
すごい、と七海は目を輝かせる。
「見てて」
詩亞は床に飛び下りる。
下半身に重心を落とし、右手を前に突き出し、軽く猫背に構える。
ふ、と肩が揺れたと思った瞬間、詩亞の身体は澱み無く動いた。どすん、とその体格からは想像もつかない程、重い音がする。右足を鋭く踏み込み左足を引きつけ、下半身から上半身へと駆け上がった『力』が右手の先より放たれる。
「すごい、すごいです、詩亞姉さま、きれい…」
詩亞の動きは速過ぎて、七海の目には全ては捉え切れない。それでも素直にそれを美しいと感じた。
「詩亞姉さまは、誰かを守る方法を習ってるんですね」
メイド仲間でも、詩亞が武術を習っていると聞くと怪訝な顔をする者が多い。こうして素直な称賛の言葉をかけてくれる七海の心根が、詩亞には心地よかった。