山手紫陽館の烙印

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七海は詩亞に連れられて屋敷の奥へと案内される。

紫陽館のメイド頭、夕月に挨拶をする。それはここに始めて来た者が必ず通る儀式のような物なのだと聞いた。

昨夜は早々に部屋に引っ込んだせいでまだ屋敷の中はほとんど見ていない。華やかな洋館は見る物全てが珍しかった。きょろきょろと辺りを見回し、すれ違うメイド服姿の女の子達に、その都度ぺこぺこと丁寧におじぎをする。そんな七海を見て詩亞は微笑む。

廊下の突き当たりで立ち止まり、扉を軽くノックする。詩亞は返事を待たずに扉を開けた。

「夕月、この子が新しく入った七海ちゃん」

ランプを灯した薄暗い部屋、椅子に腰かけて書き物をしている女性に七海は目を奪われた。白い肌と黒い髪。同性の七海から見ても美しい。

女性―夕月は手を休めまっすぐに七海を見据える。丹精なその顔から感情は伺えない。

「どうしました?」

七海は夕月の美しさに自失していた。詩亞に肩を叩かれて我に返る。

「はい。始めまして、夕月…さん。小西七海と申します」

「この館では生まれは意味を持ちません。七海、とだけ名乗るように」

「は、はい」

夕月の瞳はランプの光を跳ね返し、どこか魔術的な色彩を帯びる。

「…私、ここでは何をすればよろしいのでしょう」

「あなたの好きなように」

七海は首を傾げる。

「年に数回、幹久様がお客様をお連れします。お客様は滞在される間に、メイド達とお話をされ、その中から一人だけを選ばれます。そしてメイドの側が同意して始めて、二人は主従の関係を結ぶ事になります」

「それは…」

まるで、お見合いのようだ。

「この館は貴方に従順な奴隷になる事を望んではいません。自らの信念に従って、いつか仕えるべき主のために、日々研鑽を積みなさい」

魅入られたように、七海は頷く。

「ここは夢幻の館。現世の裏の仮の宿。紫陽館にようこそ、七海さん」

夕月が妖しく微笑んだ。

 

(c) Okada Jun 2001-2002.