月世界

7

気がつけば、すでに宵の闇は濃く、月光が世界に満ち満ちている。

静謐な夜の静寂に、大きく、震えるように息を吐いた。

この世界のアルクェイドは、俺が『ロアを殺した』おかげで蘇生できたと言っていた。それはつまり。

俺がいた、あの世界のアルクェイドも、もしかしたら、まだ死んでいなかったという事なのかも知れない。

この世界が、俺のいた世界と、どの時点で分岐している世界なのか。もし、アルクェイドが息を引き取ったあの瞬間、この世界とあの世界がまだ地続きだったのなら、彼女はまだ生きていたのだという事になる。

はかない希望、分の悪い賭け。

だけど。

助けられるのかも知れない。

まだ、間に合うのかも知れない。

世界の放浪者となった俺が、どうやればあの『時』あの『場所』へ戻れるのか。俺の力は『殺す』だけの力。一度『殺し』てしまったモノをどうやれば修復できるのか。

たとえ彼女を救えたとしても、その後にはこうして別れが待っているのかも知れない。

それでも。

――間に合うのかも知れない。

可能性があるのなら、諦める事なんて出来ない。

それに、

『わたし、志貴のことを愛してる。正直で、ぼんやりしてて、わたしにだけうるさくて、前向きだった貴方を愛してる。だから、お願い。これからもずっと、そのままで生きていってね』

それが、彼女の願いでもあったから。

「頼むぜ、相棒」

七つ夜の刀身をなでて、呟く。今はこいつだけが頼りだ。

見上げれば、天上には真円をえがく月。

そう言えば、彼女が死んだあの日も、同じように月が輝いていた。

――まずは、あがく事から始めてみよう。

無機質に世界を睥睨する月を眺めながら。

俺は窓枠に足をかけ、するりと散歩にでも出かけるように一歩を踏み出す。

「迎えに行くよ、アルクェイド」

 

 

(c) Okada Jun 2001.