気がつけば、すでに宵の闇は濃く、月光が世界に満ち満ちている。
静謐な夜の静寂に、大きく、震えるように息を吐いた。
この世界のアルクェイドは、俺が『ロアを殺した』おかげで蘇生できたと言っていた。それはつまり。
俺がいた、あの世界のアルクェイドも、もしかしたら、まだ死んでいなかったという事なのかも知れない。
この世界が、俺のいた世界と、どの時点で分岐している世界なのか。もし、アルクェイドが息を引き取ったあの瞬間、この世界とあの世界がまだ地続きだったのなら、彼女はまだ生きていたのだという事になる。
はかない希望、分の悪い賭け。
だけど。
助けられるのかも知れない。
まだ、間に合うのかも知れない。
世界の放浪者となった俺が、どうやればあの『時』あの『場所』へ戻れるのか。俺の力は『殺す』だけの力。一度『殺し』てしまったモノをどうやれば修復できるのか。
たとえ彼女を救えたとしても、その後にはこうして別れが待っているのかも知れない。
それでも。
――間に合うのかも知れない。
可能性があるのなら、諦める事なんて出来ない。
それに、
『わたし、志貴のことを愛してる。正直で、ぼんやりしてて、わたしにだけうるさくて、前向きだった貴方を愛してる。だから、お願い。これからもずっと、そのままで生きていってね』
それが、彼女の願いでもあったから。
「頼むぜ、相棒」
七つ夜の刀身をなでて、呟く。今はこいつだけが頼りだ。
見上げれば、天上には真円をえがく月。
そう言えば、彼女が死んだあの日も、同じように月が輝いていた。
――まずは、あがく事から始めてみよう。
無機質に世界を睥睨する月を眺めながら。
俺は窓枠に足をかけ、するりと散歩にでも出かけるように一歩を踏み出す。
「迎えに行くよ、アルクェイド」